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しょーしきのしょーじきしんどい。
少色適当なことを適当に書きます。
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図書館の君
 水星さんの黒ロン祭りに参加することにしました。本当はもっと分量書く予定だったんだけど地元のゲームセンターにVO4がいまどき置かれたりザインタビューズで無用の時間を使ってしまったりしてぜんぜん進まなかったから仕方なく途中でそれらしくまとめた(つもり)だよ! うるさいまた続き書くもん!
 
 家を出たのは午前十時。あてもなく歩き回って、市立図書館に入ることにした。タイル張りの階段を上り、ガラス張りの押し戸を開けて中に入る。外はもう初夏の気配だが、中は涼しかった。
 私服姿の菜々海を見て、カウンターから訝しげな視線が飛んでくる。菜々海はそそくさと靴からスリッパにはきかえ、本棚の方へ退散した。
 今年度も始まってもう一ヶ月をすぎるというのに、太田菜々海は通っている中学の制服に二、三度しか袖を通していない。外に出るときはジーンズにパーカーみたいないい加減な服装しかしない。去年一年間、あれこれと目移りしながら服を選んでいたのが遠い昔のことのようだ。
 この先にはゴールデンウィークが控えている。それをすぎれば、ますます学校には行きづらくなるだろう。どちらにせよ、学校には行きたくないから、それでいいのだけれど。
 角を曲がって、改めて所蔵されている本棚に目を向ける。辞書類や学術資料などは、金属性のスチール棚、文芸書や子供向けの絵本などは木製の棚と、ある程度住み分けられているようだ。
 木製の本棚を回っていると、昔読んだことがある絵本が目に留まった。懐かしいタイトルだったので、その場にしゃがみ込み、手にとってページをめくってみる。懐かしい。幼稚園の頃、杏奈とよく一緒に読んだ記憶が残っている。
 杏奈のことを考えると、涙が浮かんできた。慌てて目を手の甲でこする。杏奈のことは思い出したくないが、ずいぶん前に手放してしまった絵本だし、最後まで読みたい。そう思って、立ち上がって、窓際の閲覧席へと足を進める。

「――あ」

 先客がいた。女の人が窓際の席で、ノートを広げ、シャーペンを走らせている。

 ――すごいきれいな人。

 一言、そう思った。
 黒く長い髪は腰まで届きそうなほどで、日差しを浴びて、艶があるように見えた。その人の腕が動き、髪をかきあげて耳にかける。白い頬が露わになる。髪をかきあげた指先が、するりと細く伸びていた。
 見とれるしかなかった。
 二秒か二十年かの時間が過ぎたように思えたところで、相手もこちらに気づいたようで、ゆるりとこちらを向いて、軽く会釈してきた。菜々海も慌てて慌てて頭を下げると、女の人が正面に見える、別なテーブルに座った。
 テーブルに座って、絵本を開いてみるが、どうも頭に入ってこない。なんども顔を上げて、その女の人の方を見てしまう。正面から見ると、余計にきれいさが際だっているように感じられた。
 絵本と女の人の顔を何度も何度も往復して、結局、その人が荷物を片づけて、図書館を出ていくまで、ずっとそうしていた。
 絵本は、とうの昔に閉じていた。
 
 ◇

 菜々海は次の日も図書館に足を運んだ。今度は朝早く、家を出たのは八時半だった。図書館には開館と同時に入り、てきとうな文庫本を手に取って、昨日、あの人が座っていた席に座り、本を開く。
 されども、あまり頭に入ってこない。午前の日差しが目にまぶしい。ページをめくる手にもさほど力が入らない。それよりも、あの人が昨日座っていた椅子、ごつごつとした背もたれ、ひんやりとした机、それらの感触の方が、文字を追うよりもずっと鮮明に伝わってくる。何とか本に没頭しようとして悪戦苦闘すること十数分、「ここ、いいかしら」という声に顔があがった。

「あ――」
 昨日のあの人が、そこにいた。

「ごめんなさい、同じ場所じゃないと勉強できなくって。この机、使ってもいいかしら?」
「あっ、はい、どうぞ」
「ありがと」

 菜々海が慌てて答えるが、その人はまるで意に介さずといった感じで荷物を広げ始めた。何かの参考書とノート、赤色のシャープペンシル、蛍光ペン、付箋と、次々と勉強道具が広げられていく。菜々海はそれを本に目を落としつつ、横目で盗み見る。どうしても気になる。
 近くで見ると、その人はますますきれいに見えた。黒くて長い髪が、日差しに透けて茶色く見える。肌は染みなど見あたらない乳白色、指先はほっそりとシャーペンに絡みついている。
 何とか文庫本に目を落としそうとするが、目の前に座っている人が気になって、何度も顔をあげてしまう。そこはかとなく顔が熱い気がする。きっと、きっと日差しのせいだろう。

「んっ、と」

 どれくらいの時がたったのか、女の人が軽く伸びをして、菜々海はびくりと肩を震わせた。その人は深く息をつくと、シャーペンを机においた。

「ねえ、あなた、昨日もいたかしら?」

 その言葉が、自分に向けられていると気づくのにしばし時間がかかった。

「い、いました」
「名前は?」
「お、太田菜々海、です」
「ななちゃんね。私は、苑時麻美子」
 
 そういうと、その人――麻美子は手を伸ばし、菜々海の手に指を絡めてきた。突然のことに手を引っ込めそうになるが、かまわず麻美子は手を握ってくる。菜々海の顔に血がのぼっていく。

「学校は?」
「行ってない、です」

 不躾な質問ではあったが、握られている手の方に意識がいってしまって、そのまま答えてしまう。顔も熱いし、手にも汗が浮いてくる。
「どうしてかしら」

「なんとなく、あんまり、行きたくなくて」

 学校に行っても、なんとなく面白くない。田舎の狭い学校では、何も起こらないし、自分に必要なものなんて手に入らないし、ほとんどの人間が、自分に必要なものなんてわかってない。それに、学校に行っても悲しくなるだけ。

「それじゃあ、明日も来れる?」

 麻美子が微笑みながらそう尋ねてきた。手を握っていた指が、するすると、手首から肘の方へと移動してくる。麻美子の手は汗一つかいていない。さらさらするすると上ってくる。

「こ……来れます。来ます」

 学校になんて行きたくないし、この人に、麻美子に、また会いたい。手を握られていて、どきどきする。気がつくと、麻美子は菜々海の携帯を開いて、自分のものとおぼしき携帯に押しつけていた。

「はい。アドレス交換しちゃった。暇なとき、メールでも電話でもしてくれていいから」

 そういって、麻美子が携帯を返してくる。受け取るときに、また指が触れて、びくんと手がふるえる。

「ななちゃん、かわいい」

 おまけにそんなことも言われて、ますます顔が熱くなった。
 
 ◇

 次の日。
 菜々海は朝早くに起きて、シャワーを浴び、髪を丹念にとかし、久しぶりに家族とそろって朝食を食べ――もちろん母親には驚かれ、兄にはすわ学校に行くのかと思われたが――図書館の開く午前九時に間に合うように家を出ることにした。
 中学校に上がったときに買ってもらった、ほぼ新品の自転車にまたがる。乗ってていたのは去年の夏休み明けまでか。それ以降はほとんど使ってない。学校名の書かれたシールを見て、ちょっと考えてから、上からガムテープを貼って隠すことにした。不格好ではあるが、こんなものでいいだろう。スタンドを勢いよく蹴り上げ、菜々海は家を出た。
 自転車だと、図書館までの道のりはあっという間だった。まだ朝も早いのでそれほど気温も高くないし、無視も顔にぶつかってはこなかった。それに、図書館に着くまでに汗をかくのもいやだ。
 図書館の自転車置き場は、長い間放置されているのであろう埃だらけの自転車が一台、蜘蛛の巣だらけになっておいてあるだけで、がらがらだった。ふつうに考えれば、こんな時期、時間に図書館に来る人なんていない。
 携帯電話のディスプレイで時間を確認すると、九時を少し過ぎた頃だった。もう麻美子は来ているだろうか。心臓が早くなっているのがわかる。
 図書館に入ると、カウンターから怪しむような視線が飛んできた。三日も連続で来ているのだし、さすがに向こうも菜々海の顔を覚えているかも知れない。でも、不思議と気にならなかった。
 麻美子はすでに、昨日、一昨日と同じ席にいた。

「おはよう、ななちゃん」

 菜々海に気づいた麻美子が、ノートから顔を上げて、シャープペンシルを持った手をあげて声をかけてきた。

「お、おはようございますっ」

 嬉しいような恥ずかしいようなで、声がちょっと震えた。まさか、冗談だったりなんかしたら、どうしていただろう。

「来てくれてありがとう。ななちゃんに会いたくて、早く来ちゃった」

 麻美子の斜め前の椅子に座ると、唐突にそんなことをいわれた。たださえばくばくいっていた心臓がますます早くなる。

「わたし、だって、苑時さんに、会いたかったです」
「やだ、名字なんて。名前でいいのに。ね、呼んでみてくれない。私の名前」

 なんだか、麻美子のペースに乗せられている気がする。

「……えっと。あの、麻美子、さん」
「はい」

 返事をして、麻美子が小首を傾げながら小さく笑う。あわせて、黒くて長い髪が、さらさらと机にこぼれる。そうして、また麻美子の手が静かに菜々海の手に重ねられる。びくびくと肩が震えていたけれど、今日はなんとか、そうはならなかった。代わりに、顔の温度が急上昇している気がする。
 麻美子は手をつないだまま、器用に参考書のページをめくり、ノートにペンを走らせ始めた。その様子に、ちょっとだけがっかりしながらも、菜々海も持ってきておいた本を空いている方の手で開いた。あまり厚くない文庫本だったので、片手でも別に困らない。
 しばらくの間、手を繋いだまま別々なことをしていた。本のページをめくりながら麻美子が書いているノートに目を向けると、本の分類番号や、図書館の規則などが細かく書き込まれていた。図書館員になるための参考書のようだった。
 麻美子がペンを止めたかと思うと、腕を回して腕時計を見た。思わずそのを目で追うと、時間は午前十時を回ったところらしかった。

「ちょっと、暑くない?」

 そういって、手を離して麻美子が立ち上がった。触れあっていた手が、熱を持っている気がする。

「ななちゃん、そっちお願い」

 立ち上がった麻美子は、すぐそばの窓を開けて、ブラインドも半分ほど下ろした。菜々海も見よう見まねで窓の鍵を開けて、おっかなびっくり窓を開けると、そろそろとブラインドを下ろした。学校の教室にはブラインドのところもあるが、こうやって触ったのは初めてかも知れない。

「いい風」

 先に座っていた麻美子が漏らすようにいった。確かに、開け放たれた窓から、午前の日差しを和らげるように、涼しい風が入ってきて、ブラインドと、麻美子の髪を揺らした。顔にかかってくる髪を払いながら、麻美子が口を開く。

「死ぬには最高の日って感じ」
「えっ?」

 思わず聞き返していた。死ぬ?

「よく晴れた風の強い日がいい日。雨とかあまり暑い日はよくないと思うの。今日ぐらいが丁度いいわ」

 菜々海が反応に困っていると、麻美子は吹き出しながら、「知らない? チキン・ブレイブ・ハートっていうバンドの曲。The Best Day of Dieって」
 曲は知らなかったが、チキンブレイブハートは、名前を聞いたことがあった。小学校の頃、好きだといっていた友達がいたし、確か兄も何枚かCDを持っていたと思う。

「その、確か、名前くらいは分かります」
「そう? じゃあ聞いてみて。きっと、世の中がイヤになっちゃうくらい好きになれるから」

 ひきつったような、目が笑っていないような顔をしながら、麻美子がいった。
 そして、その表情を見て、菜々海は確信した。
 自分は、この人のことが好きになっていると。

 ◇

 次の日も菜々海は図書館に向かった。チキンブレイブハートのThe Best Day of Dieは、幸運なことに、兄の持っていたアルバムに収録されていた。麻美子のいっていたとおり、理想の死ぬ日と、死にたくない日の条件の歌だった。
 図書館の玄関には、すでに麻美子の靴があった。菜々海もスリッパにはきかえる。麻美子がいると分かると、カウンターからくる視線もあまり気にならなかった。麻美子はいつもと同じ位置にいた。

「おはようございますっ」
「おはよ。外、天気大丈夫だった?」
「まだ、大丈夫みたいです」

 今日は一日、天気がよくない予報だった。昨日の夜から小雨が降ったりやんだりで、午後からは大雨になるかもしれないという。

「心配しないで。私、大きい傘持ってきてるから。もし降ったら、ななちゃんも入れてあげる」

 思わず、声が出そうになった。そういわれた菜々海も、雨が降ったときのために、折りたたみ傘を持ってきていたのだ。それも二つ。もちろん、自分と麻美子の分を。

「今日、私の家、来てくれるんでしょ?」

 そうなのだ。昨日の帰り際にそう約束したのだった。もし雨が降れば、小降りになるまで図書館から近くの麻美子の家にいく約束をしていた。

「降ったら、ですよ」
「いじわる。いつでもいいのに」

 麻美子はそういって口をとがらせる。自分よりも五つも上のはずなのに、すごく子供っぽい動作だった。そのギャップで、菜々海まで口元がゆるむ。
 今日も、麻美子はノートにペンを走らせ、菜々海は本を開いた。時折麻美子の手が伸びてきて、菜々海の手に触ったり、たまに髪に触ったり頬に触れたりした。麻美子の黒くて長い髪の方がずっときれいなので、髪を触られると少し恥ずかしかった。
 菜々海が本を半分ほどまで読んだ頃だった。

「降ってきたわね」

 麻美子の声に、菜々海は顔を上げた。外に目を向けると、窓に雨粒があたり始めており、風も出てきて、外に植えられている木の枝を揺らしていた。最初は細かい雨粒だったものが、次第に大きくなって、しまいには、音を立てて窓を叩くほどになってきた。

「……強いですね」
「ほんっと。傘、二つ持ってきておけばよかったかも」
「わたし一応、折りたたみ傘ありますけど」

 我慢できなくなって、隣の椅子においた鞄を見つつ言い返した。しかし麻美子は、

「え、そう? 私、ななちゃんと同じ傘に入りたいのに」
「――――」

 体温が急激にあがっていくのが分かる。
 ――この人は、何でいつも、そんなことばっかり。
 そう思わずにはいられなかった。そして、ひょっとしてこの人なら、この人なら、と、

「うわーもう雨やばー」
「濡れてない? タオル使う?」
「あ、使う使うー」

 ――聞き覚えのある声がした。

「とりあえず、迎え呼ぶことにするわ。一緒に乗ってけよ」
「いいの? じゃーお願いしよっかなー」

 図書館に誰かが入ってきたのが分かった。多分、雨宿りにきたのだろう。

「あ……」
「ちょっと、ななちゃんだいじょぶ? 急に顔色悪くなったけど」

 菜々海の顔を見た麻美子が、慌てて菜々海の顔に手を伸ばす。手が触れた瞬間、体全体がびくりと震える。

「あ、宿題学校に忘れてきたかも」
「まじ? じゃあ俺の見る? 空き時間のうちに終わらせたし」
「ありがと。それじゃ、車が来るまでの間にやっちゃうから。そんなに量無かったでしょ?」
「うん。すぐ終わる」

 声がだんだんと近づいてきた。おそらくどこかの机を使うのだろう。

「あれ。なな、だよね?」

 すぐに、彼女は姿を現した。昔から、よく聞いている声。振り向かなくても誰か分かる。

「久しぶり――杏奈」

 泣きそうになるのをこらえて菜々海は振り返った。
 髪も制服もあちこち濡れて、頭にタオルをかぶったままの、制服姿の少女、と、その隣に立つ、学制服を脱いで肩に担ぐようにした少年の姿。
 佐藤杏奈と、石野裕太。

「えっと――元気してる? 学校、これそう?」

 少し口ごもりながら、杏奈が声を出した。

「うん。大丈夫――だから、心配しないで」

 心配しないでほしかった。心配されると、嬉しく思ってしまう。そうすると、また、自分が嫌になる。

「ななちゃんの友達?」

 そこまで黙っていた麻美子が入ってきた。いつの間にか、握っていた菜々海の手を離し、シャーペンに持ち直していた。

「はい、佐藤杏奈っていいます。えっと――」

「私は苑時麻美子。ななちゃんの親戚なの。今、学校行けように頑張ってるから、待っててあげてね」

 そういわれると、杏奈は、もちろん、と胸を張って答えた。そして、石野と一緒に、少し離れた席に座って、机に勉強道具を広げ始めた。
 それを見届けてから、麻美子はふう、と小さくため息をついた。

「嘘ついちゃった」

 そういって、ちょっと舌を出す。子供っぽい動作なのに、何故かすごく様になっていた。

「わたしの方こそ、助かりました」

 麻美子の顔を見ると、なんとか落ち着いてきた。それでも、杏奈が、こちらを見れる位置にいると思うとそわそわしてくる。
 そのまま菜々海が黙ってうつむいていると、麻美子がハンカチを差し出してきた。

「使って。涙、でてる」

 いわれて、菜々海は顔に手をやる。両目から一筋ずつ、涙が伝っていた。気づかなかった。泣かないようにしていたつもりだったのに。
 麻美子から借りたハンカチで涙を拭く。その後、手の甲で目をごしごしこする。

「落ち着いた?」

 菜々海が小さく息を吐くと、麻美子がそう聞いてきた。菜々海は無言でうなずく。本当は杏奈のことが気になって仕方ないが、麻美子の顔を見て、無理矢理落ち着いていると言い聞かせる。

「――好きだったの?」

 静かに、麻美子が尋ねてきた。やっぱり、麻美子にはばれていた。さすがに、あそこまで反応していたら分かってしまうだろう。

「好き、でした。杏奈のこと。ずっと」

 いえなかったけれど。それよりも先に、杏奈は。

「そのせいで、学校も」

 苦しくて仕方なかった。杏奈が笑顔なのが。
「大丈夫」

 麻美子の手が伸びてきて、菜々海の手に絡みつく。するすると、指を、手のひらを、手の甲を、手首を、撫で回すように動く。

「ねえななちゃん、今日はどんな日?」
「……雨、です」
「チキン・ブレイブ・ハートはなんていってたか覚えてる? 雨の日には」

 思いだそうと、少し頭をひねる。昨日聞いた、The best day of dieの、二番の歌詞。麻美子がいわせたいことはすぐにわかった。

「"雨の日は 部屋の中で メールして 電話して 一緒の部屋で 一緒にいよう"……でしたっけ」
「そう。あれって、雨の日は死んでられないから、好きな人と一緒にいようって意味なの。作詞した同級生に聞いたんだけど」

 麻美子のもう片方の手が伸びてきて、菜々海の頬を撫でた。指先で、涙の跡をなぞってくる。

「もう泣かないで。私がいるから」
「……っ」

 いちいち、いうことがずるい。菜々海はそう思った。どうしてこの人は、自分が弱い言葉ばかりを選べるんだろう。

「一緒に、いさせてください」
「いましょう一緒に。死ぬのに最高の日に」

 ……まだまだ、よく分からないことだらけの気もしたけど。
 了
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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