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この美しい世界は七夕色であるか?
七夕ですね皆さん。いかがお過ごしですか。
七夕にちなんだ小説なんてどうですか皆さん。

※7月9日訂正。4/3(蛇足)を差し替え。古いverを追記においてあります。


 1/3(少女の短冊)
 わたしは、幼い頃から短冊に「世界が欲しい」と書き続きけてきた。別に目立とうとしているわけでもないし、ふざけてやっているわけでもなかった。物心ついたときから、何となく、心の中で思っていたことを、そういった言葉で表現しただけなのに、幼稚園でも、小学校でも、書き直しを要求された。その度、観念したようにありきたりなお願いを書いた後、こっそりと、無記名で世界が欲しいと短冊に書いてつるし続けた。
 中学校に上がったとき、初めて、わたしの願いを笑わずに聞いてくれる人に出会った。その人との出会いは、中学校での七夕祭で、体育館に置かれた、竹と短冊の下。その人は短冊に、「この世界がすみずみまで美しくなるように」と書いていただけで、顔も名前も分からなかった。でも、その短冊に込められた願いだけで、わたしがその人のことを好きになるには十分だった。会って話をしたかった。その姿が、その声が知りたかった。
 だから、わたしは今年も、短冊に願いを書く。「この世界の美しさが、ほんの少しでも、わたしの物になりますように」。今年は、小さく名前を書いて。

 2/3(少年の短冊)
 去年の学校の七夕祭で、俺は不覚にも泣いていた。「世界が欲しい」と、無記名でかかれた短冊に。手にとって眺めると、「美しい」という文字が、世界の上に一度書かれて、消された痕跡があるのが分かった。周りの友人たちは、その短冊を見て笑っていたが、俺にはそんなことは不可能だった。そもそも、その短冊を見て、笑えるような奴がいる時点で不可能だ。
 俺も、小学校の頃、同じようなことを書いて笑われて、中学校に入った年は、当たり障りのないようなことを書いてお茶を濁した。こいつは、俺がやめてしまったことをやっている。俺は自分自身が無性に恥ずかしくなり、その場でもう一枚、無記名の短冊を書いてつるした。相手がそれに気づいてくれたかどうかは分からないが、とにかく、会って謝りたいとも思った。世界と一人で戦わせてすまない、と。勝手に戦うことをやめてしまってすまない、と。
 とにかく、会って話をするために、一緒に世界と戦うために、最後の七夕祭である今年は、名前を書くことにした。「世界の美しさを知らない者が、一人でも減るように」。

 3/3(短冊いらず)
 一年の頃から七夕祭実行委員会に所属していた僕は、学校の生徒ほぼ全員の短冊に一通り目を通すことができた。校内全員分を僕たち実行委員がひとまとめにして、できるだけばらばらに振り分けて、竹につるすのだ。むろん仕事はつるすだけでなく、回収・後片づけも含まれている。短冊は終了後に希望者に返したりする事もあるので、一度振り分けたものを再び学年ごとにまとめる必要もある。無記名の物も毎年一定数あり、それがまた、記名で書けないような願いばかりでまた笑えるから、いくら大変だとしても、この仕事はやめられない。
 今年も七夕祭のための短冊が集まり、僕たち実行委員会は回収と振り分けを行っていた。学年ができるだけばらばらになるように、混ぜる、混ぜる、混ぜる。
 短冊をかき回していたところで、ふと、一つの短冊が目に留まった。混ぜるのをいったんやめて、短冊を手に取る。男の文字だ。「世界の美しさを知らない者が、一人でも減るように」。どこの誰が書いたのか知らないが、気障なことを書く奴がいるものだ。世界がどうかとか、去年回収するときにも見かけた気がするから、同じ人間だろうか。去年は無記名だったが、今年は記名することにしたのか。
 短冊を戻そうとしたところで、別な短冊が目に留まる。これまた、世界という文字が見える。「この世界の美しさが、ほんの少しでも、わたしの物になりますように」。こちらもまた、何かをこじらせたようなことを書いていやがる。さっきの奴とは別人らしい。こちらも記名してある。二年の女子か。
 僕は何の気もなく、その二つを短冊を混ぜる作業から除外した。こんな訳の分からんことを書くくらいなら、並べてつるしてやったほうが恥ずかしくないし、実際絵になるだろう。僕は短冊を混ぜる作業に戻る。
 先ほど、自分で考えたことを思い出して、自然と笑みがこぼれた。――絵になる、か。
 どうやら僕も、これを書いた二人と同族らしかった。

 4/3(蛇足)
 七月七日の午後六時に、体育館が解放されて、七夕祭が始まりました。開け放たれた体育館の中で、待っていてくれるはずのお姉ちゃんを探します。人は、毎年いっぱいきます。田舎の、たった一つの中学校で行われる小さなお祭りにでも、いろんな人が集まって大騒ぎです。
 全開にされた窓と扉から、風が優しく入ってきました。優しかった風は、笹の葉と短冊をこすりあわせ、体育館全体に涼しげな音を広げました。
 風が揺らした笹の葉と短冊の下に、お姉ちゃんを見つけました。風が、お姉ちゃんのスカートを揺らしていきます。隣に、男の人が立って、お姉ちゃんと同じ方向を見上げていました。風が、男の人のネクタイを揺らしていきます。
 二人は、並びあった短冊を見上げて、目を輝かせているように、わたしには見えました。
4/3(蛇足)
 翌日の午後六時、体育館が解放され、七夕祭が始まった。人がもっとも集まるのは、短冊がつるされた竹の下だ。人混みと喧噪の中を、開け放たれた窓と扉から風が通り抜け、笹の葉と短冊をこすり、涼しげな音をたてる。
 そして風は、並びあった短冊を見上げる、少女のスカートと、少年のネクタイを揺らしていった。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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