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しょーしきのしょーじきしんどい。
少色適当なことを適当に書きます。
M&B(肉と賭け)第一話『夜のファミレス前で』
プロローグ



自宅の台所で金を数えると、純利益は十八万円といったところだった。問題解決にかかった三十三万円の約半分といったところで、かなり損をした気分になる。まあ、あとで知り合いから博打でむしりとれば、しばらくの間持つぐらいの収入ではあるから、それでよしとしよう。

 庵はサイコロをポケットから取り出し振る。目は三。庵の中で奇数の目は、勝ち金の半分を貯金することに決めていた。これが取り決めのせいで金はどんどんたまっていく。ためたとしても、たいてい右から左、上から下へ消えることのほうが多いが。

 時計を見ると、針は八時を示していた。もうとっくに夕食時だ。庵はもう二つのサイコロを取り出し、同時に振る。目は三―四―五。夕食時の三―四―五の目は外食―ファミレス―孤食と決まっていた。先ほど仲間達に金を渡したから、鉢合わせする可能性もいくらかはある。わざわざ会うのも少々気が引けるが、それはまたその時サイコロで決めればいい。

 庵は財布に金を押し込み、冷蔵庫から古挽肉を取り出した。庵は家の外に雀用の餌置き場を設置している。ただの道楽ではあるというか、挽肉の余りを処分するときのサイコロの目のせいで、今に至っている。
 
 庵が向かうファミレスは、家から歩いて十分ほどのところにある。行くまでにいくらか腹が減るのに加えて、帰るときにも丁度いい腹ごなしになる。一度クラスメイトと行った事があるが、彼らにはその十分程度の距離がえらく不評だった。なんと軟弱な連中だか、三キロ程度の距離で。

 時間が時間ということもあり、ファミレスの客足はまばらだった。庵は携帯のディスプレイで時間を確認、午後八時半。この時間ともなれば、週末だとしてもそんなに込みはしないだろう。もっと人口の多い都市ならともかく、つい最近二件目のコンビニができたばかりの街で、ファミレスがあること自体そもそも奇跡的だ。

 脇の窓から店内を少し窺ってみても、知り合いらしと思しき顔は見えない。こういった場で知り合いがいたとしても、声をかけるかどうかは賽の目しだいだが、かけたときとかけないときでは、さすがに次の日に対応にも困るというもの。顔見知りがいないのはいいことだ。

 安心して店に入ろうとしたところで、店の入り口前に庵が通う高校の制服を着た女が座っていた。

「……」

 不意打ちだった。気を緩めた瞬間の出来事だった。落ち着け。見なかったことにしろ。

 庵は普段のルールを都合よく捻じ曲げて、ファミレスに入った。後は、頼むから、帰るまでにはいなくなってくれ。

 庵が南部鶏カレー蕎麦を食べて、食後のコーヒーを飲み終えて、会計のために立ち上がるまでの約四十分間、女は店の前に座り込んでいた。帰ってくれよほんとにもう。レジで支払いを済ませて、外に出る。女のほうは、庵のことはまるで目に入っていないらしく、こちらに目を向けようともしなかった。

 仕方ない。二度はさすがに逃げられまい。庵はポケットからサイコロを取り出し、駐車場のアスファルトへと放る。目は六。こういった場合の偶数は、声をかけることになっていた。気は進まないが。

「……あのさ。ここで何してんの?」

 女は声をかけられたのがよっぽど意外だったようで、少々露骨に驚いていた。そりゃあまあ、こんな夜遅くの田舎のファミレスの前で、いきなり見ず知らずの人間に声をかけられたら誰だって驚くだろう。

「あなた……誰? ひょっとして……ナンパ屋さん?」
「違う」

 誰かはこっちの台詞だ。

 庵は女の横に座った。こういった場合は、できるだけ相手に近づいたほうがいい、となにかの本に書いてあった。が、向こうはあからさまに警戒して、庵から一メートル弱距離をとった。

 いや、別に構わないけどさあ。

「それ、林高の制服だろ? 俺も林高なんだけど。三年四組。山極庵。……まあ、知らないか」
「ああ、ギャンブル中毒の。あなたが? ふーん……」

 どうも、自分の名前は不名誉な伝わり方をしているらしかった。そんなことで有名になったとしても、全く嬉しくない。

「わたしは、宍人菜摘。三年三組だけど。……知らないでしょ?」
「あー、うん。知らない」

 庵にとって、ギャンブルと関係ない女なんてまるで無価値だ。

「でさ、何やってたわけ? 俺が入ってから出てくるまでいただろ」
「……お金もないし、食べるものもないし」

 じゃあなんでここにいるんだ、という言葉を庵は必死で飲み込む。こういうタイプは突っ込んだら負けだ。多分、そういう相手だ。

「よし。なら、こうしよう」

 ふと思いつき、庵はポケットからサイコロを取り出す。さっき振ったサイコロと一緒に、右手に握る。自分がギャンブル中毒だと思われているなら、逆に丁度いい。サイコロを女――菜摘のほうに渡す。いぶかしんでいる菜摘に、「振れって」と促す。菜摘はとまどいためらいながらも、サイコロを振る。二つの立方体は駐車場の車止めにあたって止まる。目は一・二で三。

「三か。じゃあ、俺が二以下を出したらお前に一万円やるってのはどうよ」

 庵がサイコロを拾いながらそう提案すると、菜摘は驚いたような表情を見せて、続けて呆れたようにため息をつき、

「出るわけないでしょ、三以下なんて」

 と、返した。普通に考えればそうだろう。サイコロ二つで、最低の目が二なのだから、可能性はほぼないだろう。

「ギャンブルってはなんでもできるってことよ。で、やる? やらない? どうせそっちは何も損しないんだ、精々時間を無駄にするぐらいだろ?」


 嘲り調に挑発する。賭けに載せてしまえばこっちのものだ。

「……やる。振って」

 少しは迷ったようだが、菜摘の決断は早かった。どうせ自分の側にほとんどマイナスがないと踏んだのだろう。では、と庵はサイコロを一度手の中で転がしてから、地面に振り下ろす。サイコロはさほど跳ねずにアスファルトを転がり、止まった。目は――

「一・一。俺の負けだな」

 庵はポケットから財布を取り出し、諭吉を一人、菜摘に手渡す。菜摘は何か納得していないように顔をしかめていたが、不承不承ながらも一万円を受け取った。

「さて、損したことだし、俺はこれで。じゃあ」
「バイバイ。じゃあ明日、学校で」

 また明日、だってさ。

 どうも、面倒な女と関わってしまったかもしれない。

 今更ながら、庵は思った。

 ◆       ◆

 庵から一万円を手にした菜摘は、一人で何か食べる気にはなれず、閉店間際のスーパーに立ち寄り、数種類の食材と不足分の調味料を買った。

 金に困っているというのは嘘だった。菜摘の父は海外での事業に成功して、阿呆みたいな利益を得ている。月ごとに百万単位で口座に金が入ってくるので、むしろ使い道に困っているくらいだ。

 では何故ファミレスの前に居たのかというと、有体にいえば、援交親父を引っ掛けようとしていたのだ。

 スーパーから歩いて十分ほど歩いて家に着く。鍵は閉まっていた。母が夜勤なので、鍵をかけて行ったのだろう。菜摘は鞄のキーホルダーにしている自宅の鍵で家に入る。電気はついておらず、真っ暗だった。

 家中の電気をつけてから、菜摘は台所に立った。母は夕食の準備なんかしていかない。

 さっきスーパーで買った野菜を付け合せに、冷蔵庫の中の同級生で、ハンバーグでも作ろう。

 一通り食事と後片付けを終えると、菜摘は自室に戻ってベッドに横になった。四組の阿部君は元々運動部だったからか、中々美味だった。脂身も丁度いいバランスで含まれていて、上等な方だった。本人も割りかしかっこいいほうだったし、文句なしだ。

 問題は、今日でストックしていた肉が絶えてしまったこと。そのために、今日は援交親父でも引っ掛けて喰ってやろうと思ったのだが、相手が感づいたのか、それともただ単に約束を反故にされたのか、理由は分からないけれど、とにかく相手は来なかった。

 いや、でも中年の肉はまずいに決まっている。思い込みや先入観かもしれないけど、援交の誘いにひっかかってくる相手が、おいしいとは思えない。

 勉強道具にさわることすらしないまま、一時間が過ぎた。天井の染みが人のレバーや腸に見えてくるほど、菜摘は肉が欲しかった。

 寝返りを打って、ベッドにうつぶせになる。枕を肉に見立てて抱きしめると、心が満たされて、いくらか気分が楽になってくる。ふと、胸ポケットにあるものに気づき、それを取り出す。一万円札が一枚。さっき、山極庵とかいうギャンブル中毒の生徒に、賭けともなんともいえないもので貰ったものだった。

 食べたい、と思った。

 山極庵という男を。脳を、胸を、脚を、脛を、腕を肝臓を、胃を心臓を肺を腸を、下を。全部愛してあげたい、と思い始めた。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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