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厳格的殺人鬼社会 前現来世編
 無常現世は、自宅のソファに座って、食後のワインを飲んでいた。食後とは言っても、これからのことを考えて程々にしておいた。クラッカーにチーズ、そして今飲んでいる少量のワインが今日唯一の食事だ。
 本当は何も食べずにいるつもりだったのだが、チーズが貰ったばかりだったのと、ワインがちょうど前世の自分の誕生日のものだったので、何かの符丁にも思えたため、こうやって最後の晩餐を一人で行っている。
 ワイングラスを空にして、二杯目を注ぐ。最後の晩餐とはいったが、自分はキリストの様な聖人ではないし、そもそも人ではなくて殺人鬼だ。そう思うと、自然と笑みがこぼれた。
 ワインの赤色を眺めつつ、現世は、自分の前世のことを思い出していた。前世では、今とは比べものにならないほどの人間を殺していた。その反動か、現世ではほとんど人を殺していない。おそらく殺した人数は十分の一かそこらといったところではないだろうか。来世では、また大量の人間を殺すことになるだろうが。
 人間でも、たまに前世の記憶を持ったまま生まれてくる場合があるという。殺人鬼ではよくあることだが、現世のように、地続きで前世の記憶から来世の記憶までを持っているのはさすがに珍しい例だろう。
 来世では、なにやら今とはずいぶん社会情勢が変わっているらしい。戦争も起こるらしい。生まれる場所は、また日本の様だ。殺人鬼が生まれ落ちるのは、先進国と決まっている。とはいえ、二度も続けて日本に生まれなくてもいいだろう。ヨーロッパやアメリカ、中国韓国でもいいのではないだろうか。寒いのは苦手だから、ロシアは願い下だが。
 二杯目のワインを空にして、三杯目を注ぐ。殺人鬼というのは、基本的には酒に酔うことはない。仮に酔ったとしても、それによって行動に影響が出たり、判断力が鈍ったりはしない。酔っていてもいなくても、殺人鬼がやることは変わらない。
 三杯目のワインを半分ほど飲んだところで、上等な葉巻を一本残していることを思い出した。貰い物で、普段は煙草は吸わないが、今日は最後の夜だ。吸ってしまった方がいいだろう。
 葉巻を探しだし、日を探して家をうろうろしていたところで、玄関のチャイムがなった。もう来たのか、とも思ったが、時計を見ると午後八時をすでに回っていた。定刻通りだったのか。
 現世は葉巻をあきらめると、玄関に向かった。そういえばワインも半分だ。まったく、現世の自分はずいぶんと中途半端だ。
 レンズから確認もせずに、玄関を開ける。ドアチェーンは普段からかけていない。
 開いた扉から、手が伸びてきた。握られているのは、銀色の鋼。それが、現世の右のわき腹に突き刺さった。血がにじみ、膝ががくりと折れる。
 無常現世は、今夜死ぬ。殺人鬼狩りによって殺され、現世での生を終える。
 現世が膝を折ったところで、扉が大きく開け放たれ、二人の人影が入ってくる。あっさり刺されて崩れ落ちた現世を、呆気にとられたような顔で見下ろしている。
 一人が、何か叫びながら現世の頭に金属バットを降り下ろした。現世はよけもせずにまともに食らった。頭が揺れる。降り下ろされた金属バットが、今度は真正面から顔をとらえた。現世はそのまま仰向けに倒れた。鼻血も流れてくる。歯も鼻も折れたか。
 そこから先は、ただ単に暴力が続いた。ナイフは繰り返し腹を刺し、金属バットが全身を殴打した。現世は抵抗しなかった。現世での記憶はここで終わっている。ならば、どんなことをしようとも、この日、この場で死ぬのだ。運命という物があるならば、そういうことだ。
 四肢が完全に動かなくなったところで、ナイフが首にあてがわれた。すぐに刃が皮膚を破って体の中に入ってくる。骨に当たったところで、刃が横に動く。動脈や気管が切断されていくのが分かる。血は噴水のようにあふれだしている。ナイフが抜かれたところで、傷口に向けてバットが降り下ろされた。よくそこまで残虐なことが思いつけるものだ。
 首の骨が折れる音が聞こえた気がするとともに、傷口からさらに血があふれてきた。
 そこでようやく、現世の意識が薄れてきた。しばしの間はお休みだ。次は何年後だろうか。分からないが、その時は確実に来る。それは間違いない。現世は極めて安らかな心地で目を閉じた。
 了

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

厳格的殺人鬼社会「春夏秋冬」常冬編
「無常、昼休みになったら生徒指導室に来なさい」
 四時間目の授業が終わったところで、教室から出ていこうとする担任の英語教師に声をかけられた。用件はおそらくいつもと同じだろう。
「わかりました」
 力なく返事をする。いくら注意されても、これは体質なのだから、直しようにも直らない。それにも関わらず、何度も何度も繰り返し注意されるのは、さすがにいささか時代錯誤であると思う。
 授業道具をしまい、制服の上に着たダッフルコートの上にもう一枚ジャンパーを羽織ると、常冬は廊下に出て、生徒指導室に向かった。廊下は、教室内よりも寒い。
 とかくこの世は寒すぎる。
 
 生徒指導室では、担任がすでに座って待ちかまえていた。思えば、今年の四月はまだ優しげな顔をしていたのに、今目の前にいるのは同じ人物かと疑いたくなるくらいの形相をしている。たった三ヶ月でこうも顔が変わるものなのだろうか。
「座りなさい、無常」
 そういわれて、大人しく担任の前に座る。とたんに寒気がした。どうやら、自分の座っている位置に冷房の風が吹き付けているらしい。
「もう何度もいってると思うが、おまえの服装のことだ」
「寒いものはしかたないじゃないですか」
 常冬は当たり前のように返した。自分の体質なのだから、直るものでもないし、人にとやかくいわれるようなことでもない。なにせ寒いのだから。
「だとしても着すぎだろう。一体何枚着てるんだ。今八月だぞ」
「・・・・・・六枚着てますけど」
「おかしいとは思わないのか?」
「ぜんぜん」
 下着の上に、長袖のTシャツやインナー類が三枚、制服のYシャツ、リボン、カーディガン、ベスト、セーター、ブレザー、ダッフルコート、ジャンパー、スカート、タイツ、と、これだけ着てもまだ肌寒い。冷房が当たる。もう一枚服がほしい。そもそもスカートが寒い。男子と同じパンツスタイルにしてほしいくらいだ。
「校則違反だぞ。脱げ。重くないのか」
「大丈夫です。帰っていいですか」
 もう聞きあきた話だ。常冬は立ち上がる。こんな寒い部屋に長くいたくない。
「おいまて常冬」
 立ち上がろうとした常冬の腕を、担任が掴む。
「座れ。脱げ」
 担任の唇が歪む。薄い笑い。たぶん担任は自分が正義だと思っているのだろう。あながち間違ってはいない。人間が殺人鬼をどうしようと、罪にはならない。
「やめてください」
 担任の手を振り払おうとするが、それよりも、相手が覆い被さってくる方が早かった。担任の手が、服の上から常冬の胸をさする。
 罪にはならない。罪にはならないが、常冬は抵抗した。
「やめてください先生!」
 突き上げた指が、担任の左目に突き刺さる。眼球を押しつぶす感触とともに、右手の薬指が眼腔へと入っていく。
「あああああああああああああああああああああああああ」
 担任の体が常冬から離れた。目を押さえ、椅子や机を蹴倒しながら、床にうつ伏せに倒れる。
 立ち上がった常冬は、倒れた椅子の足を掴んで、担任へと振り下ろした。
「やめてください先生!」
 椅子の背を担任の背中に叩きつける。担任の体がエビぞりにのけぞった。担任の口から、血と空気が声にならない叫びとなって漏れる。
「やめてください先生!」
 再度背中に椅子の背を叩きつける。担任の体は大きく痙攣し、空気音とともに血が口から吹き出す。指先はまだ動いている。
「やめてください先生!」
 三度背中に叩きつける。血と空気は漏れだしたが、声は出なかった。指先の動きが止まる。
「やめてください先生!」
 椅子の背を垂直に首へと振り下ろす。首がくの字に曲がり、跳ね上がった顔が見えた。白目、目鼻口からの出血。
「やめてください先生!」
 背を横殴りに担任の頭へスイングする。うつ伏せだった顔が一瞬上を向き、その後で側頭部が床を叩いた。
「やめてください先生!」
 椅子の足の先端を、こめかみに向かって突き下ろす。足が頭の皮膚を破り、頭蓋を破壊し、脳髄を貫通して頭の反対側に抜けた。
「・・・・・・寒」
 常冬はそうつぶやくと、椅子を下ろした。足下には、担任だったものが転がっている。冷房が身に刺さる。常冬は、小さくくしゃみをすると、生徒指導室を後を出た。これ以上は寒くていてられない。
 ◆       ◆
 放課後。
 常冬は部活動はしていないので、常にまっすぐ家に帰る。運動部のようなユニフォームを着ていたら寒くて死んでしまうし、文化部にしても、自由に室温が調節できない以上常冬にとって居心地がよい場所ではなかった。
 常冬の住むアパートは光熱費がかからない、殺人鬼専用の公共宿舎である。人間が殺人鬼を社会からできるだけ遠ざけようと作った施設だが、暖かい場所を作れることに変わりはないので、常冬には都合がよかった。
 自分の部屋に入った常冬は、服を一枚脱いで、エアコンの真下にあるベッドに横になり、布団を頭から被った。常冬が最も幸福だと感じる瞬間だ。
 十分ほどそうして、帰宅途中で冷えた体が暖まったところで、常冬はテレビをつけた。動かずに見れる娯楽として、テレビはとても優秀だと常冬は思う。
 テレビに写っていたのは、公営放送の殺人鬼特集だった。殺人鬼の誕生と殺人鬼法についての二章構成らしかった。
『――殺人鬼の始祖となるのは、一人の男の殺人鬼だといわれています。これは、国が標本として採集した殺人鬼の遺体のDNAや染色体の構造を調査したところ判明したもので・・・・・・』
 殺人鬼というのは、皆血が繋がった兄弟姉妹だということだろうか。とはいえ、人間も、根元的には一つのミトコンドリア・イブに帰結すると聞いたことがある。それは殺人鬼とどう違うのだろう。
『――元々、殺人鬼というのは、犯罪加害者、容疑者の自称であると警察でも思われていました。しかし、世界中で同様の事例が報告され、殺人鬼を名乗る犯罪者たちの細胞や精神構造などを研究するにつれ、彼らが人間とは違った存在であることが明らかになっていったのです・・・・・・』
 姿形が同じだったら同じ人間なのだろうか。逆に言えば、姿形が違うのならば、人間ではないのだろうか。奇形や隻腕、盲目者などは人間ではないのだろうか。
『――これらの殺人鬼に対応するために、日本では、世界各国に先駆けて殺人鬼法を制定、殺人鬼による殺人を、違法としないとするとともに、殺人鬼の数や実態の調査のため、殺人鬼に対して殺人鬼免許を交付し、更新を義務づけました。しかし、この殺人鬼法が必ずしも守られているとはいえません』
 殺人鬼なのだから、人間が作った法律に必ず縛られる訳はない。貯水管理にダムを作ったとしても、豪雨や劣化でダムは決壊するし、ダムを作るにも多額の費用がかかるだろう。
『――我々は、近年ますます増加する殺人鬼に対し、ますます警戒し、殺人鬼に対する理解を深めていく必要があるでしょう・・・・・・』
 殺人鬼は概ね人間を理解している。同様に、人間が殺人鬼を理解することはさほど難しくないだろう。少なくとも、一部の知識人は殺人鬼にどのように対応したらいいのか分かっているだろう。だが、そうではない人間の方が圧倒的に多いのもまた事実だろう。――それが直らない限りは、殺人鬼は人を殺し続けるだろうし、人間は、殺人鬼をおそれ続けるに違いない。
『――近年では、殺人鬼狩りを自称する集団が、日本の都市部や、世界各地の主要都市で出現し・・・・・・』
 テレビはまだ終わっていなかったが、常冬はテレビを消し、もう一度布団を深く被り目を閉じた。部屋は相変わらず暖かい。
 了

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

厳格的殺人鬼社会「春夏秋冬」常秋編
 無常常秋は日が暮れた町中を散歩していた。それに、もう十分も前から、後ろから誰かがつけていることも感じ取っていた。周囲には万全の注意をしていたつもりだったが、相手方の執念も相当なものだといえた。
 そもそも、今の日本において、夜、一人で出歩くことがどれほど危険か分かったものではない。女性の夜歩きが危険であるとかの次元ではなく、それこそ、男女が全くの平等に、殺人鬼という危機におののいているのが、日本に限らず、世界中の今だ。
 だが、常秋はそういった殺人鬼に怯える側ではない。むしろ逆――常秋本人が、当の殺人鬼であった。
 だから常秋にとって、背後にひたとついて離れない相手は、それなりに不気味で、理解不能な存在だった。たまたま同じ方向に向かっているということはないだろう。常秋は相手を撒こうと何度か道を変えている。だとすれば、昨今出てきた、いわゆる『殺人鬼狩り』の連中か。
 人間の方も、ただ殺人鬼に殺されてだけいるわけではなかった。殺人鬼というものをなんとか制御しようと、殺人鬼法を制定したり、殺人鬼を公的機関で登用したり、はてまた、殺人鬼に対する自警団を作ったりと、様々に殺人鬼に対する対応策は練られている。その中で、近年急速に台頭してきたのが、殺人鬼狩りを自称する一団である。
 殺人鬼狩りのやることは、いうなれば殺人鬼を集団リンチして、完全に生命活動を停止させることであり、構成員は多くが十代から二十代の若者だ。殺人鬼狩りをしようとして返り討ちにあったりもしているが、それでも、殺人鬼の数が減るならと、多くの場合が黙認されている。中には、自分の手柄を自慢しようと、殺人鬼に対して一体一での殺し合いを求める手合いもいるらしい。
 常秋を追っているのもそれだろうか。
 常秋も、追いかけっこにそろそろ飽きてきたところだった。特に帰るところがあるわけでもないが、こうもつきまとわれてはたまったものではない。
 常秋は近所の公園へと足を進めた。以前はそれなりに人がいる公園だったのだろうが、少なくとも、今は全く人の気配がない。
 公園の真ん中まできたところで、常秋は振り返った。立っていたのは、髪を金と黒で左右に染め分けた男だった。手には、細めの鉄パイプが握られている。
「あんた、殺人鬼だろ」
 質問ではなく確認だった。おそらく、ここで否といったとしても、この男は襲いかかってきただろう。――そういうことが、『できる』人種に違いない。
「そうだ」
 常秋は短くそれに答える。話しても分かることなどない。殺人鬼は人間に対してなにもいうべきことなどない。人間が分かろうと分かるまいと、それは殺人鬼には関係ない。
 男が鋭く一歩踏みだし、鉄パイプでの突きを放ってくる。常秋はそれを後ろに大きく跳んでかわす。そこへ重ねるように下段足下への三連突き、胴への払いが襲ってくる。それらをなんとかかわして、常秋は大きく男と距離を取った。
 獲物の長さもあるだろうが、向こうも相当に慣れている様子だ。主導権を取られれば、本当にやられるだろう。常秋は腰の後ろに差したナイフを引き抜いた。刃渡り十五センチほどの、どこにでもあるようなナイフだ。特に愛着もない。
 男は鉄パイプの先で軽く地面を叩いた後、一息に踏み出してきた。袈裟に降り下ろされる鉄パイプを身をよじってかわす。かわしたまま踏み込み、男が降り下ろした右手の手首に切りつける。手応えがあった後はすぐに身を引く。長物を持った相手にはこれが一番効く。
 男の手首から勢いよく血が流れ出す。思っていたよりも深く切り込めたようだ。男が顔を上げ、再び攻撃してくる。胸の中心への突きは鉄パイプを脇から叩いて受け流し、逆に右腕の肘へと刃を一閃させる。薄い傷だが、ダメージは十分だ。
 常秋の連撃に、男の目の色が変わった。足下へ大きく薙払いをかけてくる。常秋がそれを飛び上がってかわしたところへ、腹をねらった突き。常秋はそれをナイフで受けるが、当然そこで体制が崩れる。着地したところで、下から振りあげられた鉄パイプが右手からナイフを弾きとばした。男が踏み込んでくる。短く持った鉄パイプが腹にたたき込まれ、常秋の腹に激痛が走る。常秋はなんとか鉄パイプを掴むが、先に男の頭突きが頭に入る。よろめいたところで、とどめとばかりに鉄パイプが横殴りに顎をとらえ、常秋はその場に倒れた。
 なかなかやる、と常秋は心外に驚いた。殺人鬼狩りが皆これだけの連中だったとしたら、将来的に、殺人鬼は存在しなくなるのかもしれない。
 顎の骨が折れたかもしれないが、内蔵のダメージは僅か。一方向こうは出血がひどいはずだ。耳に男が歩み寄る音が聞こえてきた。このまま寝ていては、頭を潰され心臓を突かれて死ぬばかりだろう。
 男の足が目の前で止まったところで、常秋は男の足に組み付いた。男の驚いた顔が見える。構わず、間接を極めて男をその場に倒す。男が短く持った鉄パイプで常秋の頭を突いてくるが、逆にその手に噛みつく。男が手を引っ込めようとする前に、小指と薬指を噛みちぎる。瞬間、男の苦悶の声が響く。
 常秋は立ち上がった。男は右手首と肘からの出血、さらに左手の指二本を失って、その場から立ち上がらなかった。常秋は男が手放した鉄パイプを拾い上げた。接続部分を先にして、めいっぱいに長く持つ。そして、力一杯に男の頭に降り下ろした。男の頭が割れて、血液と脳髄がまき散らされる。男は両手を軽く痙攣させ失禁した後、動かなくなった。
 常秋はそれを見遂げると、鉄パイプを捨てて、その場を後にした。
 傷も、明日までには癒えるだろう。
 ◆       ◆
 翌日、目覚めた常秋は、まず顎に手をやった。昨夜の傷はほぼ完全に治っている。今日一日あれば完全に元通りになるだろう。いや、完全な元通りではないか。体の新陳代謝で新たに治ったという通常の人間通りの解釈をすれば、元の通りということはあり得ない。
 常秋は身を起こした。昨夜のねぐらは、ホームレスを刺し殺して得たダンボールハウスだった。すぐ傍らに、血塗れのホームレスの死体が転がっている。殺したのが夜だったおかげで、さほど腐敗も進んでいない。季節がら、だいぶ涼しくなってきたとはいえ、放っておけばすぐに腐敗していくだろう。
 衣服を点検する。あちこちに血の斑点があったが、さほど問題はないだろう。ポケットの中の殺人鬼免許証を確認すると、常秋は外にでた。秋めいたの空気が常秋の顔をなでた。
 ダンボールハウスのあった橋の下から道路にでる。通勤通学の時間帯らしい。先を急ぐ車や、高校生が乗った原付などが多い。
 何か腹に入れておきたところだが、今の時間では、どこの店も開いていないだろう。せいぜいコンビニ程度が関の山だ。殺人鬼はよく人の肉を食すなどといわれるが、常秋は人肉はさほど好みではなかったし、昨日殺したホームレスなどはあまり肉付きがよくなく、生物量的に得ることのできるエネルギーが少ないからあまり食っても意味がない。
 ガードレールの外から道路を眺めながら食事の算段をしていた常秋だったが、突然に交差点からけたたましいブレーキ音がなり、瞬間的に目がいく。見ると、右折しようとした高校生の原付が、対向斜線の乗用車と激突したところだった。
 原付の方は横っ腹からはね飛ばされたようで、原付のパーツと、高校生の鞄の中身が周囲に散らかり、交通を妨げていた。
 乗用車の方もスピードを出していたらしく、正面が大きくへこみ、割れたライトの破片が四散していた。
 高校生は原付から投げ出され、道路の左端に寄せられていた。横たわった体の下に、血が染み出している。跳ねた乗用車の運転手が出てきて、高校生の様子を確かめだした。
 常秋は小さくため息をつく。あれくらいなら運がいいくらいだろう。交通事故にあう確率と、殺人鬼に遭遇する確率、どちらが高いかといえば、答えは一つ「全く同じ」だ。程度の違いこそあれ、ここで交通事故にあうことと、昨日の夜刺し殺されることは全く同じ確率で起こり得たことだ。何に遭遇するかは――運命だとか、そういうもので決まってでもいるのだろうか。
「あんた、殺人鬼かい?」
 唐突に、脇から声をかけられた。声の方を向くと、ホームレス然とした男が、疲れた目でこちらを見ていた。
「どうして分かる?」
 殺人鬼は外見は人間と大差ない。それこそ、殺人鬼狩りのような、鼻のいい奴くらいにしか分からないはずだ。
「さっきそこで、山さん死んでたよ。やったのあんただろ」
 昨夜殺したホームレスの仲間か。
「そうだ」
 常秋が肯定すると、男は顔をくしゃくしゃにして笑って、いった。
「じゃあ、俺も殺してくれ。もうたくさんなんだ」
 常秋はさほど驚かずに男を見つめ返した。男が続ける。
「あそこで、高校生が事故ってるだろ? あんな若い子があそこで事故ってて、俺みたいな未来も何もない奴がこんなところで生きてるのはおかしいだろう。不公平じゃないか」
 男のいうことに感心しつつ、常秋はナイフを懐から出した。常秋は殺人鬼だ。殺せといわれて、殺さない理由はない。
「殺人気にあえるなんて、ラッキーだった」
 常秋は、世界を知るものが減っていくことを実感しつつ、ナイフを男の首へと走らせた。動脈と気管が切断され、血飛沫とともに男の体が傾斜し、河川敷へと転がり落ちていった。
 交差点に目を向ける。事故現場には、救急車が来たところだった。
 了

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厳格的殺人鬼社会「春夏秋冬」常夏編
 深夜の繁華街。
 雑多な人種の群れの中を、一台のパトカーが赤色灯を回りながら進んでいく。すんでのところで誰にもぶつからずに進んでいるが、よっぽど緊急らしく、かなりの危険運転といえた。運転席には、紺の制服に身を包んだ若い警官。後部座席の人物に気をかけながら、サイレンを鳴らすかどうかを迷っているようだ。
 後部座席に乗るのは、一人の女だ。一見しても警官ではない。今が夏場であることを考慮しても、パトカーにストライプのチューブトップ、タイトジーンズ、きつめの赤色にしたポニーテイルという組み合わせは釣りあわない。
「常夏さん」
 運転席の警官が、後部座席の女に声をかけた。女は特に返事をせず、目を動かすだけでそれに答えた。
「後十分ほどでつきますけど、すぐ行けますか」
「トーゼン。余裕」
 愚問とばかりに女がいうと、男は肩を小さくして、その代わりにスピードを上げた。
 ◆
 事件は街の中心部に位置するヘルスで起きていた。一人の男がヘルス内の人間を人質にとり、現金三億円と国外へ逃げることを要求していた。男は何故か軍用銃であるH&KのMP5と青竜刀のような大剣を所持しており、すでに多数の死者が出ているとのこと。警察はこれを異常事態と認識し、警察専属の殺人鬼である無常常夏に解決を依頼。今から一時間半前、十時五十分のことである。
 ◆
 常夏が現場につくと、周囲は深夜だというのに人で溢れかえっていた。人間の汚い部分を目の端に捉えながら、常夏はパトカーのトランクを開けた。そこに積まれているのは、冗談のようなサイズのククリ――ひらがなの「く」の字の形をしたナイフだ。常夏の上半身くらいの大きさはゆうにある。
 常夏は鞘からナイフを抜くと、それを肩に担いで人の群れへ割り込んでいく。人々はその横柄な態度に一時皺を寄せたが、その巨大なナイフを見て、すぐに恐れをなして道を開けていく。殺人鬼という存在に関わりたいと思う人間はそうそう居ない、常夏への視線は冷たい。軽蔑というよりは、恐怖や畏怖の視線だった。
 黄色のテープを潜り抜け、ヘルスの最上階を見上げる。精々四階程度だろうか。低いビルを改造して使っているらしい。
「お疲れ様です」
 常夏の到着に気づいた一部の警察官が、常夏に向かって敬礼する。そこに媚を売るような態度はなかった。あれば、常夏がその場で頭を割っていたところだ。常夏はそれにもさほど反応せずに、わずかにククリを傾けただけだった。
「相手はどこ?」
 ククリを地面に突き立てつつ、常夏が利いた。
「現在は最上階に居ると思われます。階段は入って一番奥です。一応は、人質の保護と犯人の確保が最優先するよう指示が出ていますが……」
「ムリ」
 そうですよね、と警官は半ばあきらめ気味に嘆息すると、周囲の人間に道を開けるよう指示した。常夏はククリを引っ担ぐと、真っ直ぐヘルスへと入っていった。
 ◆       ◆
ヘルスの中はブレーカーが落とされているらしく、薄暗かった。外から警察が入れる光が窓から店内を照らす。常夏はククリの刃のない部分を肩に担いでいる。外気に反して冷え切った刀身が心地よい。
 相手は素人だ、と常夏は判断する。少なくとも、自分と同じような『殺人鬼』ではない。素人ならこちらがダメージを負うことはまずないと思っていいだろう。もっとも、相手がなんだろうと関係はない――そう思った矢先。
「うひゃああああああああっははっははあああ」
 前方の闇から、奇声とともに迫る影。一瞬見えた人影の手元で鋭い光。常夏はククリを薙ぎ払いながら大きく一歩後退。明らかな奇襲だった。だが、直前まで殺気を感じなかったところから、向こうは殺人鬼ではないものの、そこそこ優秀な「人殺し」であることはわかった。
 ――無論、相手が殺人鬼なら殺気など一つも感じないだろう。
「殺人鬼の……姉ちゃんよォォォォォォォ」
 闇から聞こえてくる声。明らかなゲス男の声だった。常夏は耳を澄まして相手との正確な距離を測りつつ、相手の言葉に耳を傾ける。
「殺人鬼のクセして人間なんかの見方しちゃってさああああ~恥ずかしくないの?」
「何で?」
 相手の問いに、常夏は素で聞き返した。テストなら零点だ。
「私は別に、人間の味方をしてるわけじゃない。私はあんな奴らに頼まれなくても人は殺すし、むしろ人を殺す数は増えてるけど。警察関係者も大勢死んでる。何かおかしい?」
「……」
 相手が黙り込んだのを見て、常夏が動いた。ククリを振りかぶり、相手の男へ向けて突進する。向こうが回避する間を与えずに振り下ろす。重さのあるククリは薙ぎ払いには向かないが、振り下ろしならば殊更の破壊力を発揮する。
 戦斧のごとき一撃は、男の左腕を肩から切断、左脚の側面を削り下ろしながらヘルスの廊下まで削る。
 腕一本を代償に、男が常夏の懐に入り込んでくる。男は常夏の足元まで体を沈みこませると、一瞬で股から喉まで切り上げてくる。常夏はククリを引き寄せ柄の部分で防ぎ、そのままの流れでククリを垂直方向の軌道に変化、一息に男の頭部に刃をめり込ませる。
「く」の字の刃は頭部を粉砕、脳を真っ二つにしながら突き進み、背骨に沿って真っ二つに切り下ろす。ククリはそのままコンクリートの床に叩きつけられ、大小の瓦礫を巻き上げて男の死体に降りかける。床に血と埃の斑模様が残った。
「……」
 常夏は男の死体を見下ろした。なんて弱い。勝手に騒いでおきながら、それでいてあっさり死んでしまう。
「死ねてよかったね」
 常夏は男に優しく声をかけ、二階へと登っていった。 
 ◆       ◆
  二階は一階に比べ、警察が入れる光が明るかった。犯人が三階にいるという情報を考えれば、二階当たりから照らしておくのが当然なのかもしれない。常夏が階段に足をかけたところで、廊下に面した一室の扉が開いた。常夏は咄嗟にククリを構えるが、すぐに殺気も何もないことに気づく。
 部屋から飛び出してきたのは、半裸の女だった。ずっと隠れていたのか、目に涙を浮かべがらこちらへ向かってくる。常夏が警戒を解いてククリを下ろそうとした直後、
「し、死ぃにたくないいいひいいいぃぃっ!」
 女の目が絶叫とともに見開かれ、常夏はククリよりも早く、拳を女の腹に叩き込む。女の体がきりもみに回転しながら後ろの廊下へと吹き飛ばされる。廊下の奥の闇に消えたところで、爆発。女の肉片と血が常夏のもとへ飛来する。常夏はようやく自分が油断していたことに気づいた。今まで隠れていた人間が、どうして警察でもない人間の前にのこのことあらわれるのか。どう考えても罠だった。
「ひゃああああ」
「ひいいいいい」
「ああああああ」
 三つの声と三つの影。今のと同じ人間爆弾の三人か。爆発の一瞬前に、常夏は正面の金髪の頭に組み付き、半回転で首を折る。金髪の背を蹴って距離をとり、空中で一回転して二人目の色黒の女の頭を割る。着地と同時にククリを水平に旋回させ、最後尾にいた色黒茶髪の女の首を刎ねる。色黒茶髪の脇をすり抜けて転がった直後、三人がほぼ同じタイミングで爆砕、常夏の背中にたっぷりと血と肉片が降りかかる。びちゃびちゃという音とともに、三つの命がただの肉塊になっていく。
 人が人として死ねるのは、人の形を持って死んだときだけだ。この有様では、人は人と呼べない。
 常夏は油断しながら、憤りを覚えていた。人間が人間の命をもて遊ぶ行為。殺人鬼であるが故の感情だった。
 三階へと上がろうと、階段に足をかけた。
 ◆       ◆
  常夏が三階に上がると、すぐそこにマシンガンを抱えた男が立っていた。男の顔は軍人然とした引き締まった表情で、常夏を待ち構えていた。
「警察の殺人鬼と聞いている」
 男が口を開いた。重みのある、気が引き締まりそうな声音だった。
「俺は瀬川康一。お前と、勝負がしたい」
 康一と名乗った男はマシンガン――H&KMP5を常夏に向けた。暗がりでよく見えないが、背中には常夏のククリと同等のサイズはあろうかという刃物があった。
「私は無常常夏。いいよ別に、殺したげる」
 請負は易い。おそらく、向こうもわかっているはずだ――――
 勝負には、ならないと。
「――っふ!」
 先手は常夏が取った。肩口に構えたククリを真一文字に康一の頭頂へ向け振り下ろす。康一はそれを後ろに身を引くことで回避、マシンガンを応射、数発が常夏の脚を捕らえる。一瞬バランスを崩すが、即座に持ち直し、ククリを噴水のような勢いで振り上げる。康一はそれを体を逸らしつつ後退して回避、そこから変化した横薙ぎの剣閃も身を屈めて回避した。
 常夏が追撃しようとしたところで、康一の撃った銃弾が顔面を削り取っていく。脳の一部が吹き飛んだが、殺人鬼である常夏にとっては大した問題ではない。康一が驚くのも構わず前進し、ククリを振るい、康一の手の中のマシンガンを両断する。康一は驚愕しつつも、背の刃物に手を伸ばした。常夏もそれを許すほどではない、即座に刃を返し、「く」の字刃の内側に巻き込むように康一に切りかかる。康一がしゃがみこんで回避しようとするが、すかさず太刀筋を変化させ、斜めの切り下ろしに変化させる。ククリの刃が、康一の肩へと吸い込まれる。そのままククリは康一の体を両断――――しなかった。
 ククリが康一の体を輪切りにする直前、常夏と康一の、外に面した壁が吹き飛んだ。外から何か打ち込まれた、と判じるのとほぼ同時に、常夏の意識が跳んだ。
 ◆
「……続けていけ!」
 常夏が突入したビルの外で、桐原の指示がとぶ。桐原の指示に従い、戸惑いつつも、周囲の警官が催涙弾や音響弾を投げ込んでいく。
 桐原は必死だった。いかに人間に協力しているとはいえ、相手は殺人鬼なのだ。いつどこでこちらに刃を向けるかわかったものではない。早めに手を切るべきだと何度も上に掛け合ったが、上はまるで聞こうとしない。もしここで無常常夏を殺しそこなえば、自分は班長としての立場を追われるばかりか、殺人鬼自身からも報復を受けるだろう。そんなことになれば、命はない。なんとしても、無常常夏を殺さなければいけないのだ。殺してしまえば、後はどうとでもなる。
「一班から順に突入しろ、犯人の確保より、殺人鬼の始末を優先だ!」
 ◆
「う……」
 常夏が身を起こすと、辺りは瓦礫の山だった。部屋が二、三大穴を空けてつながっており、一つの巨大な部屋となって、外にその内部を晒していた。
 外から何か撃ってきた――おそらくは、テロリスト仲間ではなく、警察関係者からの攻撃だと察しがつく。この状況は、自分を狙うのに絶好の機会だ。もし自分を疎んじている者がいるなら、このタイミングはある意味完璧だ。
 常夏は奥の部屋に転がっていたククリを拾い上げた。表面の傷は増えているが、使用には問題ないだろう。さっきまで戦っていた男は、今ので多分死んだだろう。殺人鬼ならば大丈夫だろうが、まさか普通の人間が今のような奇襲攻撃を受けて生きているはずがない。常夏は上の階への階段を探す。今回の件はこれで手仕舞いだ。とりあえず、上にいる人間を皆殺しにして帰ろう。
 階段は瓦礫が邪魔して道が半ば閉ざされていた。ククリの峰の部分で大きな欠片を払い、何とか隙間を作り、その中に潜り込む。暗いものの、奥には階段が残っていた。人質とやらは、この先にいるのだろう。
 階段の先の、鉄製の扉を開ける。扉の先には、裸の女、服を着た女、服を着た男――おそらく、ここの従業員たちだろう。テロリストたちにここに集められていたということか。
「さ……殺人鬼?」
 暗がりの中から、誰かが一言呟いた。誰でもわかる。このような場に、ククリを持って入ってくるなど、殺人鬼以外にいない。
 殺人鬼、と聞いて、即座に、部屋中に恐怖と怯えが広がっていく。ただ、誰も動かない。テロリストに続いて殺人鬼なのだから、動けないのも、十分わかる。
 常夏はククリを肩に掲げる。部屋中の視線が、常夏の武器へと注がれる。
 部屋の外からは足音が聞こえてくる。テロリストがわざわざ殺人鬼にかかってくるとは思えない。来るとしたら、常夏を始末しようという、警察の人間だろう。ならば、やることは一つしかない。殺すだけ。
 常夏のククリが振り下ろされる。袈裟に振り下ろされたくの字の刃は、目の前の全裸の女二人の首を刎ねた。首が驚いたような表情のまま転がり、間を開けず首から血があふれる。
「ひ……っ!」
「動くな」
 上がりそうになった悲鳴を、一声で抑えさせる。足音は、ますます迫ってくる。
「ここでじっとしてて」
 それだけいって、常夏は部屋を出る。階段を上る音が聞こえてくる。銃を持っている気配は間違いない。
 常夏は扉を乱暴に閉めると、ククリを肩口に構えなおした。
常夏編――了

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

厳格的殺人鬼社会「春夏秋冬」常春編
 無常常春が目を覚ますと、自分の手が死体の口の中だった。どうせ寝相が悪かっただけだろう、と自分を納得させると、毛布の上の眼球を払いのけ、ベッドから起き上がる。
 足元にあった生剥ぎの皮で足を滑らせながら、階段を下りて一階のキッチンへ。キッチンへの扉に腸が巻きついていたので、引きちぎって捨てておく。
 いつも通りの腐敗臭を胸いっぱいに吸い込み、今日も朝が来たことを実感する。冷蔵庫から野菜ジュースを取り出し、食器棚からコップをとってそれに注ぐ。
 野菜ジュースを飲みながら、テーブルの上のクラッカーを取る。それを電子レンジの角皿にあけ、上にチーズとケチャップをぶっかける。レンジを二分に設定すると、飲み終わったジュースのコップを流し台において、新聞を取りに行く。
 玄関の扉には、ノブをがっしりと握った右手が、肘の辺りからくっついていた。常春は切断面を持ってノブを回し、器用に扉を開けた。靴は履き替えず、裸足のまま外に出る。
 新聞受けには、朝刊と、一通の封書が入っていた。水頃市の端であるこの辺の地区は、この時間に配達がくるはずが無い、常春は裏返して差出人を見る。
 差出人は、『殺人鬼免許交付センター』となっていた。そういえば、この前の免許更新からそろそろ一年経つころだ。封を破ると、一枚の地図と、案内の文書が入っていた。
『無常常春殿
 前回の免許更新から一年が過ぎましたので、免許更新の通知致します。今週中に、別途の地図に記しました場所までお越し願います』
 常春は地図を見た。水頃市の丁度反対側だ。これならば、今日中に行ってきたほうがいいのかもしれない。常春は、今回はどんな試験が行われるのか不安に思いつつも、部屋に戻った。
 ◆       ◆
 常春が試験会場につくと、自動的に職員が常春を案内した。胸には殺人鬼教会のロゴ入りバッヂ。
 前年と同じように、広めの立方体の部屋に連れられる。精々十×十という広さで、全ての平面が白で塗装されている。その白が途切れるのは、壁の一番上に設置されている監視用ののぞき窓と、天井に用意されたシャワー、床の排水溝、その程度だ。
 常春が少し待っていると、入り口の扉が開き、二人の男が入ってきた。
 一人は面接官で、箱の上に担当やナイフ、ククリや青竜刀といった刃物形の凶器が置かれている。面接官は白衣に身を包み、冷たい目で常春を見ている。
 もう一人は、手錠で両手を繋がれた男だった。頭には布を被せられており、これから何が起こるのかわかっていない様子だ。
 試験官は無言で常春に凶器を選ばせた。常春は少しの間迷っていたが、結局、刃渡り十センチほどの短刀を選んだ。普段一番使い慣れているナイフに近かったからだ。試験官は手錠をされていた男の布を外し、手錠も外した。試験官は常春のものと似通ったナイフを渡すと、男の困惑顔もそのままに部屋から出て行った。
 やがて、部屋全体に響き渡る音量で放送が始まる。
『試験者、無常常春。対戦死刑囚は斉藤祐市。間違いありませんね?』
 質問というよりも、ただの確認だった。有無を言わせぬ迫力がある。斉藤はますます困惑の色を強めた。
『では、試験者はいつも通りに。対戦死刑囚に説明します。これが貴方の死刑方法です。貴方にはこれから殺しあってもらいます。負ければ死にますが、勝てば釈放します。説明は以上です』
 斉藤の顔が汚らしく歪んだ。それと同時に、試験開始のブザー、十一時丁度のブザーが鳴り響く。
 常春の動きは一瞬、春疾風のごとき。短刀の一閃は斉藤の腹部を深く切り裂いた。
「ぎゃああああああ、痛いぃひぃいいい」
 斉藤はその痛みに飛び跳ね、ナイフを取り落とす。常春は失望したような表情を浮かべながら、ナイフを逆手に構え直した。横に一閃。斉藤の両の眼球がきれいに裂けた。
「ひいい!? 暗い、暗いよおおお」
 斉藤は暗所恐怖の兆候を見せながら床を転がっていく。純白の床が赤く染まっていく。常春は激しくのた打ち回る斉藤の動きをものともせず、短刀で斉藤の右手首を切断した。断面から鮮血が噴出し、床に白と赤のコントラストを作る。斉藤の動きが止まりかけたところで、常春の槍のような蹴りが斉藤を大きく後ろへ吹っ飛ばす。斉藤はよろよろと立ち上がるが、そこへ常春が襲来する。
「いやああ、死にたくないぃ、死にたくないぃっぃいぃぃぃぃっぃ」
 常春の手の中の短刀が舞い踊る。
 斉藤の足首が切り落とされた。
 斉藤の右腕が肘から切断された。
 斉藤の左耳が切り落とされた。
 斉藤の左足が太ももの半ばで切断された。
「あ、あはは、ははは」
 笑い始めた斉藤の首が墳血とともに切断された。
『――終了してください』
 アナウンスがかかり、常春は手を止めた。丁度、斉藤の首が転がって行き、反対側の壁にぶつかったところだった。
 ◆       ◆
  常春は試験を終え、電車で帰路についていた。免許は即日交付で、その場で顔写真を撮ってから新品の免許が渡された。免許とはいっても、生年月日と顔写真、人物の性癖や備考なども記された、簡単なプロフィールカードとなっている。
 いくら常春とはいえども、自分の免許を人前で出したりはしない。今でも殺人鬼を恐れている人間は多い。この大多数が集まる電車の中では、すぐにパニック状態になるだろう。それもまたつまらないことではないが、今はそんな気分ではなかった。
 やがて電車は常春の降りる駅に到着する。今日は一人ぐらい殺しておこうか、それとも今日は殺さずに明日にしようか。駅の改札を通り、駅前の商店街へと抜ける。商店街を抜ければ、すぐに自宅が見えてくる。それまで誰か殺すかどうかは、常春も解らない。
「あの、殺人鬼の方ですよね?」
 八百屋の辺りに差し掛かったところで、そのように声をかけられた。声の方向を振り向くと、そこには三十代半ばほどの女性が立っていた。常春は辺りを見渡す。周囲に目立った人ごみはいない、立ち止まって話しても不審がられることは無いだろう。傍から見れば、他愛の無い世間話をしているようにしか見えないはずだ。
「そうですけども……何か御用ですか?」
 微笑みながら常春は答える。ポケットの中のナイフに手を伸ばす。最近使っていないナイフに手を伸ばす。レザーの柄の感触と、刀身の冷え冷えとした刀身の気配。
「私は、夫を殺人鬼に殺された物です」
「はあ」
 それがどうしたというか、常春はため息をついた。殺人鬼が人を殺して何が悪いのか。普通のことだ。
「何故、貴方たちは人を殺すのですか? 何故夫を殺したのですか?」
 常春は一瞬考えるような素振をした。相手の愚かさに、気味の悪い微笑が浮かんでくる。
「それはですね、奥さん、殺人鬼の誰も知らないと思いますよ」
 相手の顔が驚きに変わる。そのまま咎めるような表情に変わり、その顔と口調で言葉が漏れていく。
「じゃあ――どうして人を殺したりするんですか? 夫は何故死ななければいけなかったんですか? 夫以外にも、死ぬべき人はいるんじゃないですか?」
 夫人の気迫に、常春も一瞬たじろいだ。だが、それだけだった。
「貴方がそう思うのは当然です。人の死は誰にも予期できません。貴方のご主人がどのような人物だったのかはわかりませんが、きっと貴方にとってはよき夫だったのでしょう。ですが、死は平等です。良い人も悪い人もいずれ果てます。貴方の周りに良い人が少なかったのか、貴方の周りに悪い人が多かったのか、そのどちらかだったんでしょう。人は良い人の死を悼み悪い人の死を喜びます。人間とはそういうものです。貴方のご主人が亡くなったことは悲しいことです。でも、どうしようもないことです。人の死を止める力は、人間にも殺人鬼にもありません。酷い言い方になりますが、『運が悪かった』ということです』
「運……」
「そう、運です。不幸とか幸運とかそういった程度の話じゃありません。人生の中にある無数の地雷を、避けて通るか踏んでしまうかということです。助かることもあれば、即死してしまうこともあるでしょう。ご主人は運の悪いことに、今回は即死する地雷を踏んでしまったのです。そして地雷が殺人鬼だったのです。運が悪かったですね。では、ご主人の魂が報われるよう願っています」
 相手が二の句を継ごうとしていたが、常春は、どこかぼんやりと何の気も無しにポケットからナイフを取り出していた。
「でもあんたも死ね」
 一瞬の間があってから、ナイフが作った風が流れた。女性の首から上が綺麗に吹き飛ばされ、八百屋のトマトの中に突っ込んでトマトと血が入り混じった巨大トマトが完成する。首の切断面と胴体の切断面から、血が交差するようにあふれだす。辺りから悲鳴が上がるが、常春はナイフの血を路上に払い歩き出す。
 今自分が殺した相手の顔も、もう思い出せなかった。

常春編――了

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